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横浜地方裁判所川崎支部 平成9年(わ)356号 判決

主文

被告人を懲役四年に処する。

未決勾留日数中四〇〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、川崎市中原区小杉御殿町一丁目九〇六番地所在の宗教法人西明寺の責任役員であり、同寺の代表役員である実父岩谷照純の委任を受けて、同寺が所有する不動産等の資産を保管、管理する業務に従事していたものであるが、その傍ら、同寺所有の不動産等の資産を運用・管理する目的で設立された三幸商事株式会社(以下「三幸商事」という。)及び三幸地所株式会社(以下「三幸地所」という。)の各代表取締役として、右両社の経営にも当たっていたものであるところ、三幸商事名義で融資を受けていた金融機関からの借入金の利息等の支払に窮したことなどから、西明寺の所有土地をほしいままに他に売却し、その売却代金を右利息等の支払に充てようと企て

第一  西明寺所有の川崎市中原区小杉御殿町一丁目八九三番三一所在の土地(山林、一七〇平方メートル)を同寺のため業務上預かり保管中、岩谷照純及び三幸地所の従業員池田文雄(以下「池田」という。)と共謀の上、平成四年四月三〇日、同区小杉町二丁目二七一番地一号所在の三幸商事兼三幸地所の事務所(以下「三幸商事等事務所」という。)において、京浜商事株式会社(以下「京浜商事」という。)専務取締役相田満州雄との間で、右土地を、同社に代金一億三二四万円で売却する契約を締結して代金を受領し、同日、同社に対する所有権移転登記手続を完了し、もって、右土地を横領した。

第二  西明寺所有の同区小杉町二丁目三〇九番一一所在の土地(宅地、四九・六七平方メートル)を同寺のため業務上預かり保管中、岩谷照純、池田及び三幸地所の従業員宮崎忠悌(以下「宮崎」という。)と共謀の上、平成四年九月二四日、前記三幸商事等事務所において、株式会社東横商事(以下「東横商事」という。)代表取締役小出茂との間で、右土地を同社に代金一五〇〇万円で売却する契約を締結して手付金一五〇万円を受領し、同年一〇月六日、三幸商事等事務所において、小出茂から、残金一三五〇万円を受領し、同日、東横商事に対する所有権移転登記手続を完了し、もって、右土地を横領した

第三  西明寺所有の同区小杉町二丁目三〇九番二八所在の土地(宅地、一二九・五六平方メートル)及び同区小杉町二丁目三〇九番二九所在の土地(宅地、八平方メートル)を同寺のため業務上預かり保管中、岩谷照純及び宮崎と共謀の上、平成五年二月八日、同区小杉町三丁目四一五番地一所在の川崎信用金庫武蔵小杉支店において、山本浩司との間で、右各土地を同人に代金四一三〇万円で売却する契約を締結して代金を受領し、同日、山本浩司に対する所有権移転登記手続を完了し、もって、右土地を横領した

第四  西明寺所有の同区小杉御殿町一丁目八九三番三二所在の土地(山林、六九平方メートル)を同寺のため業務上預かり保管中、岩谷照純及び宮崎と共謀の上、平成五年二月二一日、三幸商事等事務所において、村田保子に対し、右土地を同人の子の村田大作に代金一六〇〇万円で売却する契約を締結して手付金四〇万円を受領し、同年三月三一日、同区小杉町三丁目四四一番地所在の第一勧業銀行武蔵小杉支店において、村田保子から残金一五六〇万円を受領し、同日、村田大作に対する所有権移転登記手続を完了し、もって、右土地を横領した

第五  西明寺所有の同区小杉御殿町一丁目六九五番地一〇所在の土地(宅地、二四一・八一平方メートル)を同寺のために業務上預かり保管中、岩谷照純及び宮崎と共謀の上、平成六年二月二三日、同区小杉町一丁目四〇三番地所在武蔵小杉STMビル内の三菱銀行武蔵小杉支店において、大塚誠一との間で、右土地を齋藤眞砂次及び高田眞一に代金四八〇〇万円で売却する契約を締結して代金を受領し、同日、右齋藤眞砂次及び高田眞一に対する所有権移転登記手続を完了し、もって、右土地を横領した

第六  西明寺所有の同区小杉御殿町一丁目八九九番三所在の土地(宅地、二〇一・五四平方メートル)を同寺のため業務上預かり保管中、岩谷照純及び宮崎と共謀の上、同年五月一九日、三幸商事等事務所において、知工悦子及び知工研太との間で、右土地を同人ら及び知工知―に代金四八八五万六〇〇〇円で売却する契約を締結し、同年六月一〇日、前記三菱銀行武蔵小杉支店において、知工悦子らから、右土地の売却代金四八八五万六〇〇〇円を受領し、同日、右知工知一、知工悦子及び知工研太に対する所有権移転登記手続を完了し、もって、右土地を横領した

ものである。

(証拠の標目)省略

(補足説明)

弁護人は「被告人の本件土地売却行為は、西明寺が金融機関に対して負っていた連帯保証債務(主債務者は三幸商事)の履行、もしくは、同寺が本件当時、三幸商事に対して負っていた借入金債務の支払(同寺の債務の消減)を目的としてなされたものであるから、被告人に横領行為はなく、また、不法領得の意思もなかったというべきであるから、被告人は無罪である」などと縷々主張し、被告人も右主張に副う供述をしているので、以下検討する。

[当裁判所が認定した事実関係]

関係証拠を総合すると、以下の事実が認められる。

第一  被告人の身上・経歴、三幸商事及び三幸地所の設立経緯並びに西明寺と右両会社における被告人の地位等

一 被告人は、西明寺の住職で、同寺の代表役員をしていた父岩谷照純(以下「照純」という。)と同寺の責任役員をしていた亡母岩谷隆眞(以下「隆眞」という。)の長男であるところ、昭和四五年三月に東京都内の大学を卒業してから会社員として稼働した後、昭和四七年に勤務先を退職して寺に戻り、昭和四八年四月に資格を取得して同寺の僧侶となり、昭和五七年四月、同寺の責任役員となって寺の経営(財務等)に関与するようになったが、父照純が高齢(大正元年一〇月一九日生)であったこともあって、寺の財産管理を任されるようになり、次第に経営(財務)の実権を握るようになり、寺所有土地の権利証・印鑑・預金通帳等を管理するようになったほか、被告人自身、照純、隆眞ら岩谷家の家族の預貯金通帳や印鑑の管理も行うようになった。

二 西明寺は、神奈川県知事から宗教法人としての認証を受けている真言宗智山派の仏教寺院で、同派の教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成するなどの業務及び事業を行うことを目的とし、檀信徒が約五〇〇名おり、境内地約三〇〇〇坪、境外地約八〇〇〇坪を所有し、境外地の大半を一〇〇人以上に賃貸していたものであるところ、同寺は、かねてから、地代が固定資産税より低額なところがあったのに、これをそのまま放置するなど杜撰な管理をしていたため、被告人らは、昭和四八年一月ころ、渡邉一成弁護士に、西明寺の顧問弁護士に就任してもらい、以後、同弁護士が賃貸地の地代の値上げ交渉等寺所有土地の法務事務を行うようになった。

三 そして、被告人、隆眞及び照純は、隆眞の発案で、昭和四九年二月一四日(設立登記)、〈1〉西明寺所有土地上に賃貸用建物(マンション)を建築して賃料収入を得る、〈2〉敷地所有者である寺に地代を支払って、寺の収入の確保を図る、〈3〉寺の所有地を担保に入れて金融機関から融資を受け、これを寺のためにも使う、などを目的として、三幸商事を設立し、当初は隆眞が代表取締役、被告人及び照純(昭和五二年九月まで)が取締役となり、主として隆眞と被告人が寺の賃貸地の地代の徴集や借地人との交渉等の業務に当たっていたが、昭和五八年一一月ころ、被告人が代表取締役となった。

四 また、被告人は、昭和六三年一二月二六日(設立登記)、もっぱら、三幸商事が所有するマンション等の賃貸借契約の仲介等不動産取引を行うことを目的として、三幸地所を設立し、自ら代表取締役となった。

五 被告人は、三幸地所設立以後、三幸商事と三幸地所(以下、両社を合わせて「三幸商事等」ということがある。)の事務所を同一建物内に置き、両会社を区別することなく一体のものとして、従業員に両会社の仕事を行わせ、両会社を実質的に一つの個人会社のようにし、さらに、これに、西明寺及び照純、隆眞、被告人ら岩谷家の家族(以下「岩谷家個人」という。)の経理をも合わせて、これらを、渾然一体のものとして処理するようになった。その手法は、例えば、西明寺や岩谷家個人の口座が資金不足で、支払が困難になった場合に、三幸商事の口座資金に余裕があれば、右口座から資金が不足している西明寺や岩谷家個人の口座へ資金を振り替え、これを、西明寺や岩谷家個人の名義で必要な支払に充てるというものであった(当然この逆の場合もあった。)。このようにして、被告人は、西明寺及び三幸商事等を自分の思うとおりに経営するとともに、岩谷家個人の経理をも管理するようになった(これらを裏付ける事実として、〈1〉被告人が、昭和六〇年ころから、西明寺及び三幸商事等の印鑑類を袋に入れて持ち歩いていたこと、〈2〉被告人が、西明寺及び三幸商事所有の不動産の権利証や西明寺、三幸商事等、岩谷家個人名義の預貯金通帳類を、三幸商事等の事務所の金庫内に保管していたこと、〈3〉三幸商事及び三幸地所の経理事務は、平成元年ころから平成五年九月ころまでは判示第一及び第二の共犯者である池田が、それ以降は、判示第二ないし第六の共犯者である宮崎が主に担当していたが、同人らは、被告人の指示に従って前記のような資金流用による経理処理を日常的に繰り返していたこと、などを指摘することができる。)。

第二  西明寺及び三幸商事等の経営状況の概要等

一 被告人は、昭和五〇年ころ、西明寺所有土地の有効利用を図るためとして、寺の所有土地を担保に入れて金融機関から融資を受け、それを資金として、寺の所有土地上に三幸商事所有名義のマンションを建築し、その建物全体を日本石油化学株式会社に社宅として賃貸した(この際の金融機関や建築会社等との交渉は、隆眞及び被告人が担当した。)。そして、被告人は、昭和五三年ころから、三幸商事の事業として、寺所有地の借地人から借地権を買い上げて更地とし、その土地上に三幸商事所有名義のマンション等を建築し、右建物の敷地を三幸商事が西明寺から賃借した形を整えた上で、右建物を会社等の法人にいわゆる一棟貸しする事業を展開するようになり、合計一二棟の建物を建築した。しかし、被告人には、もともと自己資金がなかったため、被告人は、寺の所有土地を担保に入れ、寺を連帯保証人として金融機関から融資を受けて事業資金を捻出していたが、さらに、右事業は、融資を受けてから建物を完成させて家賃収入を得ることができるまでの間の金利を支払わなければならないという負担を伴っていた。また、三幸商事が西明寺に支払うべき地代については、税務対策上、三幸商事と寺との間で賃貸借契約書及び不動産管理契約書を作成したことはあったものの、現実に支払われることはなかった。(なお、三幸商事等の顧問税理士であった関谷税理士は、税務対策上、地代相当の金額を西明寺の三幸商事に対する貸付金として会計処理していた。)。

二 西明寺の経営状況についてみるに、帳簿上、〈1〉昭和五八年度(昭和五八年四月から昭和五九年三月まで)は、約一億二三八七万円の黒字であり、銀行元利返済超過額(金融機関からの借入金の合計から、金融機関に対して支払った金額を差し引いた金額であって、金融機関に対する残債務を意味する。)が約一九五九万円に止まっていたところ、〈2〉昭和五九年度は、約八五八五万円の黒字であったものの、銀行元利返済超過額が約二億八一九五万円となり、以後、銀行元利返済超過額が黒字額を超えるようになり、〈3〉昭和六〇年度は、約一億一八〇七万円の黒字で、銀行元利返済超過額が約二億四三七二万円、〈4〉昭和六一年度は、約八一〇五万円の黒字で、銀行元利返済超過額が約一億八六〇一万円、〈5〉昭和六二年度は、約六四五七万円の黒字で、銀行元利返済超過額が約二億二八八九万円となっていたが、〈6〉昭和六三年度は、約二億四〇二三万円の赤字となった上、銀行元利返済超過額も約四億一九七万円となり、その後も赤字が続き、〈7〉平成元年度は、約三億一二六〇万円の赤字で、銀行元利返済超過額が約三億二五三六万円となり、〈8〉平成二年度は、約三億五二六一万円の赤字で、銀行元利返済超過額が約三億二一〇九万円となり、〈9〉平成三年度は、約三億六一七八万円の赤字で、銀行元利返済超過額が約一億三二四四万円となり、〈10〉平成四年度は、約一億九〇九万円の赤字で、銀行元利返済超過額が約七四二五万円となっていた。

三 次に、三幸商事の経営状況についてみるに、帳簿上、〈1〉昭和六一年度(七月期決算で、昭和六〇年八月から昭和六一年七月まで。以下同じ。)は、約四一八万円の黒字(ただし、短期借入金が約一億三四〇〇万円、長期借入金が約一四億五六二三万円)であったが、〈2〉昭和六二年度は、約二三三一万円の赤字(短期借入金が約一億六〇〇万円、長期借入金が約一七億八一四〇万円、支払利息が約一億一三一二万円)となり、以後赤字が続き、〈3〉昭和六三年度は、約四一九七万円の赤字(短期借入金が約四億四九〇〇万円、長期借入金が約二一億一四九六万円、支払利息が約一億四二九九万円)、〈4〉平成元年度は、約五六七九万円の赤字(短期借入金が約三億一六〇〇万円、長期借入金が約三〇億八五四五万円、支払利息が約一億九八一六万円)、〈5〉平成二年度は、約七七三六万円の赤字(短期借入金が約四億四八五四万円、長期借入金が約三五億一一七九万円、支払利息が約二億七二二六万円)、〈6〉平成三年度は、約八六八八万円の赤字(短期借入金が約四億四九四〇万円、長期借入金が約三六億七一八五万円、支払利息が約二億九六三九万円)となっていた。

第三  各金融機関の西明寺、三幸商事、被告人、照純、隆眞に対する融資状況及びこれに対する被告人の関与状況等

一 富士銀行、三和銀行、第一勧業銀行、日本住宅金融株式会社(以下「日住金」という。)、住宅ローンサービス株式会社及び三和ビジネスクレジット等が、西明寺、三幸商事、被告人、照純及び隆眞名義で貸し付けた状況及び平成八年一一月末日時点における未払元本・利息は、別紙「西明寺・三幸商事等借入及び融資残高一覧表」(四三添付の一覧表と同一内容のもの、以下「別紙一覧表」という。)記載のとおりであるが、その概要をみるに、各金融機関は、平成五年四月二一日までの間に総合計六九億六九七万五五四九円を貸し付け、融資残高は、総合計六一億六三五五万八九八八円(未払元本五五億四二三六万二一五五円、未払利息六億二一一九万六八三三円)に上っている。

二 被告人は、金融機関から前期一の各融資を受けるに当たって、全ての事例について交渉を担当しており、また、融資に当たっては、例外なく、西明寺所有土地が担保に提供され、三幸商事名義の借入れについては、西明寺が連帯保証人となっているところ、被告人は、各融資を受ける際、宗教法人法及び西明寺規則が定める、寺の資産を処分する場合に必要な手続〔代表役員は、寺と利益が相反する事項については代表権を有せず、この場合には、法類(同宗・同派に属する僧侶)のうちから責任役員が合議して仮代表役員を選定しなければならない(西明寺規則一六条一項)。責任役員は、自分と特別の利害関係がある事項については、議決権を有せず、この場合には、総代及び法類のうちから仮責任役員を選定しなければならない(同条二項)。寺所有の不動産を処分し、又は担保に供しようとするときは、信徒総代の意見を聞いて、責任役員の同意を得た後、その行為の少なくとも一月前に、檀信徒その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない(二七条)など〕を一切履践しなかった。加えて、被告人は、融資を受けるに当たり、自ら西明寺の代表印を無断で使用したり、池田に照純の署名をさせるなどして「三幸商事が右融資を受けるにあたり、西明寺所有土地を担保として提供することに異議がない」旨の西明寺責任役員議事録を作成したり(別紙一覧表、三幸商事番号32、39及び40)、西明寺規則二七条に基づく公告の看板を掲げたものの、その直後に右看板を写真撮影して撤去する(同39及び40)などした。

第四  借入金の支出状況

前記第三の一記載の融資金については、融資が実行されるにあたって、金融機関と被告人との間で、融資金の使途目的が「賃貸住宅建築資金」「借地権買取資金」「土地購入資金」「西明寺本堂・庫裏屋根葺替資金」「肩代り資金」「運転資金」等(別紙一覧表の「使途目的」欄参照)とされていたところ、具体的な金額を認定することはできないものの、融資金の一部が、使途目的どおり、借地権買取資金、西明寺本堂・屋根葺替資金、賃貸アパート建築資金等に支出されているけれども、被告人は、後記のとおり、その一部について使途名目に適合しない西明寺や三幸商事の金融機関に対する借入金の元利金の返済、被告人が購入したマンション等不動産の代金、主として岩谷家の家族(被告人を含む、以下同じ。)が使用するために多数回にわたって購入したメルセデスベンツ等の高級外車の代金、岩谷家の家族がデパート等で購入したブランド品・宝飾品等の贅沢品等の買物代金等の支払に充てていた。その詳細は、以下のとおりである。

一 被告人が、融資を受ける際に、その条件となっていた融資金の使途目的と適合しない支出をしていたと認められる事例は、以下のとおりである。

1 西明寺名義で、昭和五九年七月一二日、富士銀行から使途目的を「転貸金」として融資を受けた五〇〇万円(別紙一覧表・西明寺番号5)のうち、四五〇万円が三幸商事に貸付金名目で、三〇万円が被告人に対する貸付金名目で、支出されている。

2 西明寺名義で、昭和六〇年三月二二日、日住金から使途目的を「仁王門・仮庫裏新築資金」として融資を受けた二億円(別紙一覧表・西明寺番号6)のうち、約一億四二三万円が三幸商事に対する貸付金名目で、二五〇万円が被告人に対する貸付金名目で、八〇万円が渡邊征子(被告人の実姉、以下「征子」という。)に対する貸付金名目で、約二〇〇万円が借入金利息として、支出されている。

3 三幸商事名義で、昭和六一年三月一〇日、富士銀行から使途目的を「他行肩代り」として融資を受けた一億九六〇〇万円(別紙一覧表・三幸商事番号20)について、被告人は、公判廷において「一部を利息の支払や西明寺に回す金に使用した」旨供述している。

4 西明寺名義で、昭和六三年二月二五日、日住金から使途目的を「書院建築資金」として融資を受けた一億円(別紙一覧表・西明寺番号8)のうち、約二一一七万円は建物(建築費)に支出されているものの、六〇〇万円が三幸商事に対する貸付金名目で、約六六五七万円が被告人に対する貸付金名目で、約三三三万円が租税公課の支払に支出されている。

5 西明寺名義で、昭和六三年一一月七日、日住金から使途目的を「マンション購入資金」として融資を受けた六〇〇〇万円(別紙一覧表・西明寺番号9)のうち、約一九九二万円は建物に支出されているが、二五〇〇万円が三幸商事に対する貸付金名目で、約七〇八万円が被告人に対する貸付金名目で、約一八九万円が照純に対する貸付金名目で、約二二二万円が日住金に対する借入金の支払に、約八三万円が利息金の支払に、約一一一万円が給料・保険料・旅費交通費・水道光熱費・通信費の支払に、支出されている。

6 三幸商事名義で、昭和六三年一一月一七日、日住金から使途目的を「賃貸住宅建築資金」として融資を受けた三億円(別紙一覧表・三幸商事番号31)について、被告人は、公判廷において「一部をマンション・建物の購入、借地権の買い取りのために支出し、一部を金融機関からの借入金元本及び利息の支払に支出した」旨供述している。

7 三幸商事名義で、平成元年一月一三日、三和ビジネスファイナンスから使途目的を「土地建物」として融資を受けた三億円(別紙一覧表・三幸商事番号32)のうち、一億円が三幸商事の三和ファクターに対する借入金の弁済に、四三〇〇万円が三幸商事の第一勧業銀行に対する借入金の弁済に、支出されている。

8 西明寺名義で、平成元年三月三一日、三和銀行から使途目的を「書院建築資金」として融資を受けた一億二〇〇〇万円(別紙一覧表・西明寺番号11)のうち、約二八三六万円は書院及び東門の建築資金に支出されているが、九〇〇〇万円が被告人に対する貸付金名目で支出されている。

9 三幸商事名義で、平成元年六月二三日、日住金から使途目的を「賃貸住宅建築資金」として融資を受けた二億円(別紙一覧表・三幸商事番号33)のうち、一億一二〇〇万円は建築資金として支出されているが、四八〇〇万円が三幸商事の日住金に対する借入金の弁済として、四〇〇〇万円が西明寺に対する貸付金名目で支出されている。

10 三幸商事名義で、平成元年一〇月一七日、三和銀行から使途目的を「賃貸ビル建築資金」として融資を受けた二億円(別紙一覧表・三幸商事番号34)について、被告人は、公判廷において「右借入金は建物建築費用と金利の支払に支出したが、金利の支払に支出した分のほうが多い」旨供述している。

11 三幸商事名義で、平成元年一二月四日、日住金から使途目的を「土地購入資金」として融資を受けた三〇〇〇万円(別紙一覧表・三幸商事番号35)について、被告人は、公判廷において「右借入金の殆どを金利の支払に充てた」旨供述している。

12 三幸商事名義で、平成元年一二月一五日、三和銀行から使途目的を「建築資金」として融資を受けた一億円(別紙一覧表・三幸商事番号36)について、被告人は、公判廷において「右借入金の七割を金利の支払に、一部を土地の購入費用に支出した」旨供述している。

13 照純名義で、平成元年一二月二五日、第一勧業銀行から使途目的を「仏具購入」として融資を受けた四〇〇〇万円(別紙一覧表・照純3)について、被告人は、公判廷において「右借入金は金利の支払に支出した」旨供述している。

14 被告人名義で、平成元年一二月二六日、富士銀行から使途目的を「寄付金」として融資を受けた二〇〇〇万円(別紙一覧表・被告人番号11)について、被告人は、公判廷において「右借入金は金利の支払に支出した」旨供述している。

15 三幸商事名義で、平成二年二月九日、三和ビジネスファイナンスから使途目的を「土地建物」として融資を受けた三億円(別紙一覧表・三幸商事番号39)について、被告人は、公判廷において「右借入金は全て金利の支払に支出した」旨供述している。

16 三幸商事名義で、平成二年五月三一日、三和ビジネスファイナンスから使途目的を「土地建物」として融資を受けた三億円(別紙一覧表・被告人番号40)のうち、一億五〇〇〇万円はマンション建築資金として支出されているが、一億五〇〇〇万円が日本抵当証券に対する負債の返済として支出されている。

17 隆眞名義で、平成二年八月二〇日、第一勧業銀行から使途目的を「証券投資資金」として融資を受けた三〇〇〇万円(別紙一覧表・隆眞番号1)について、被告人は、公判廷において「右借入金を金利の支払に支出した」旨供述している。

18 照純名義で、平成二年一〇月二五日、日住金から使途目的不明で融資を受けた四億円(別紙一覧表・照純4)について、被告人は、公判廷において「右借入金全部を金利の支払に支出した」旨供述している。

19 西明寺名義で、平成二年一一月二六日、第一勧業銀行から使途目的を「借地権購入資金」として融資を受けた三〇〇〇万円(別紙一覧表・西明寺番号12)のうち、二九〇〇万円が三幸商事に対する貸付金名目で、約五〇万円が第一勧業銀行に対する弁済として支出されている。

20 三幸商事名義で、平成二年一二月一七日、日住金から使途目的を「借地権付建物購入資金」として融資を受けた一億六五〇〇万円(別紙一覧表・三幸商事番号42)について、被告人は、公判廷において「一億円を借地権の購入資金として、六五〇〇万円を金利の支払に支出した」旨供述している。

21 隆眞名義で、平成二年一二月一八日、第一勧業銀行から使途目的を「薬師堂新築・仏像仏具購入」として融資を受けた二億一〇〇〇万円(別紙一覧表・降眞番号2)について、被告人は、公判廷において「金利の支払に支出している」旨供述している。

22 照純名義で、平成三年二月二七日、第一勧業銀行から使途目的を「庫裏建築資金」として融資を受けた三億円(別紙一覧表・照純番号5)について、被告人は、公判延において「金利の支払に支出した」旨供述している。

23 隆眞名義で、平成三年二月二七日第一勧業銀行から使途目的を「アパート改築資金」として融資を受けた四〇〇〇万円(別紙一覧表・隆眞番号3)について、被告人は、公判廷において「金利の支払に支出した」旨供述している。

24 三幸商事名義で、平成三年三月二六日、日住金から使途目的を「賃貸住宅増築資金」として融資を受けた六〇〇〇万円(別紙一覧表・三幸商事番号43)について、被告人は、公判廷において「半分を建物の建築費に、半分を金利の支払に支出した」旨供述している。

25 三幸商事名義で、平成三年一〇月三〇日、日住金から使途目的を「借地権付建物購入資金」として融資を受けた一億一〇〇〇万円(別紙一覧表・三幸商事番号44)について、被告人は、公判廷において「全部金利の支払に支出した」旨供述している。

以上によれば、被告人は、融資を受けた金員の多くの部分(特に、平成元年以降は、融資を受けた金員の殆ど)を、使用目的以外の支払に充てていることが明らかである。

二 被告人が行った不動産、外車の購入及び岩谷家の家族がしたデパート等における買物状況等

1 被告人は、次のとおり、リゾートマンションや土地を購入し、代金を支払っている。

(一) 昭和五七年六月三〇日、征子(名義の無断使用、以下の征子名義による購入は、全て名義の無断使用である。)又は被告人名義で、逗子マリーナ七号棟七一〇八号室を代金約三〇〇〇万円で購入している(昭和六二年一二月二五日に被告人が株式会社住宅ローンサービスから二〇〇〇万円の融資を受け、これを支払に充てているものとみられる。)。

(二) 昭和五七年一〇月三一日、征子名義で、右マンション七号棟七一四六号室を代金三八〇〇万円で購入し、同日五五〇万円を支払い、昭和六一年、被告人名義に所有権を移転し、三〇〇〇万円(三和銀行のローンで融資を受けた金員)を支払っている。

(三) 昭和五八年一二月二二日、三幸商事名義(登記上は征子名義)で、インペリアル赤坂フォラム六二五号室を代金四七五〇万円で購入し、同日四七五万円を、昭和五九年一月二六日四二七五万円を、いずれも三幸商事名義で支払っている。

(四) 昭和六一年二月二日、三幸商事名義で西武ヴィラ苗場七号館七―三〇九号室を代金一三八〇万円で購入し、同日全額を支払っている。

(五) 同年四月一八日、三幸商事名義で、西武ヴィラ苗場七号館七―三〇八号室を代金一四五〇万円で購入し、同日全額を支払っている。

(六) 昭和六二年六月八日、自分名義で、千葉県我孫子市の山林(地目)を代金一五八二万五〇〇〇円で購入し、同日二〇〇万円を支払っている(残金は同年七月七日までに支払う約束をしている。)。

(七) 同年九月二八日、自分名義で、同市の山林(地目)を代金三四六八万四〇〇〇円で購入し、同日三〇〇万円を支払っている(残金は同年一〇月三一日までに支払う約束をしている。)。

(八) 昭和六三年九月二〇日、三幸商事名義でソネット草津三一七号室を二二八〇万円で購入し、同日二二〇万円を、平成元年五月一五日二二八万円を、同年一二月一五日諸費用を含む残金一八四三万円を支払っている。

(九) 昭和六三年九月二〇日、三幸商事名義でソネット草津三一八号室を二三六〇万円で購入し、同日二二八万円を、平成元年五月一一日四六四万円を、同年一二月一五日諸費用を含む残金一九四七万円を支払っている。

(一〇) 昭和六三年九月二〇日、三幸商事名義でソネット草津三二六号室を一九〇〇万円で購入し、同日一八二万円を、平成元年五月一一日一九〇万円を、同年一二月一五日諸費用を含む残金一五三九万円を支払っている。

(一一) 昭和六三年一一月八日、西明寺名義でヒューマンズ・ウエル京都一〇七号室を一億九三〇〇万円で購入し、同日三八六〇万円(うち約二〇〇〇万円は、別紙一覧表・西明寺番号9の融資金の一部である。)を支払い、平成元年三月二〇日残代金一億五四四〇万円及びオプション費用四五〇万円(うち一億四〇〇〇万円は、別紙一覧表・西明寺番号10の融資金である。)をいずれも西明寺名義で支払っている。

(一二) 被告人は、平成三年九月一一日、征子名義でインペリア赤坂フォラム駐車場を一七三六万七二〇〇円で購入し、同日代金を支払っている。

以上によれば、被告人は、自分、三幸商事、西明寺及び征子名義でマンションなど一二件を購入金額総合計約四億七〇〇七万円で購入している(なお、右のうち、少なくとも(一一)の購入代金中の約一億六〇〇〇万円は、別紙一覧表記載の融資金から支払っているとみられる。)。

2 被告人は、昭和五九年一二月から平成八年九月までの間に高級外車二五台(メルセデスベンツ一八台、フォルクスワーゲンゴルフ三台、オペル四台)を、総額約二億二一九五万円を支出して購入している。

3 デパート等における買物等

岩谷家の家族が「玉川高島屋」「日本橋三越」「ピサ東京プリンス店(セゾングループの高級ブランド品取扱店)」で行った買物等の購入額は、以下のとおりである。なお、この代金は、西明寺及び三幸商事名義の口座から支払われ、西明寺及び三幸商事から被告人に対して貸付けたものであるとして会計処理されている。

(一) 昭和六二年度は、〈1〉玉川高島屋(以下「高島屋」という)から合計約二〇四〇万円の物品(特選ブティック等)を購入し、合計約一七二四万円を支払っている。

(二) 昭和六三年度は、〈1〉高島屋から合計約二六六四万円の物品(特選ブティック、宝石・貴金属等)を購入し、合計約二三二二万円を支払い、〈2〉日本橋三越(以下「三越」という)から合計約二〇万円の物品を購入し、合計約一五万円を支払い、合計で約二三三七万円を支出している。

(三) 平成元年度は、〈1〉高島屋から合計約五七二六万円の物品(特選ブティック、特選家庭用品等)を購入し、合計約六一九七万円を支払い、〈2〉三越から合計約三〇九万円の物品(輸入プレタポルテ等)を購入し、合計約四六四万円を支払い、〈3〉三幸商事名義で出走していたカーレースの費用に約七三四万円を支出し、合計で約七三九五万円を支出している。

(四) 平成二年度は、〈1〉高島屋から合計約六五〇四万円の物品(特選衣料雑貨、特選ブティック、高級呉服・帯地、腕時計等)を購入し、合計約五四九八万円を支払い、〈2〉三越から合計約一―〇一万円の物品(ティファニー、エルメス等)を購入し、合計約一一二三万円を支払い、〈3〉カーレースの費用に約五四一万を支出し、合計で約七一六二万円を支出している。

(五) 平成三年度は、〈1〉高島屋から合計約四八七四万円の物品(特選衣料雑貨、特選ブティック、高級呉服・帯地、眼鏡等)を購入し、合計約一九二一万円を支払い、〈2〉三越から合計約九三八万円の物品(ティファニー等)を購入し、合計約六三四万円を支払い、〈3〉カーレースの費用に約六五二万円を支出し、〈4〉ピサから合計約一五四五万円の物品(エルメス、ピアジェ、シェレル、フェレ等)を購入し、合計約六五八万円を支払い、〈5〉岩谷家の家族七名が、八月、長野県軽井沢町所在の万平ホテルに宿泊(一〇泊)した代金約二七六万円を支払い、合計で約四一四一万円を支出している。

(六) 平成四年度は、〈1〉高島屋から合計約一九八四万円の物品(高級呉服・帯地、輸入特選品等)を購入し、合計約四四一〇万円を支払い、〈2〉三越から合計約五七八万円の物品(ティファニー等)を購入し、合計約七六二万円を支払い、〈3〉ピサからの物品の購入はなく、合計約八八八万円を支払い、〈4〉岩谷家の家族五名が、八月、前記万平ホテルに宿泊(四泊)した代金約一三六万円を支払い、合計で約六一九六万円を支出している。

(七) 平成五年度は、〈1〉高島屋から合計約七三三万円の物品(婦人カジュアルウエア、エルメス、玩具等)を購入し、合計約二一三九万円を支払い、〈2〉三越から合計約一五七万円の物品(ダンヒル等)を購入し、合計約二七六万円を支払い、〈3〉ピサから合計約四五六万円の物品(エルメス等)を購入し、合計約三七二万円を支払い、〈4〉岩谷家の家族七名が、八月、前記万平ホテルに宿泊(一〇泊)した代金約三〇六万円を支払い、合計で約三〇九三万円を支出している。

(八) 平成六年度は、〈1〉高島屋から合計約一四八九万円の物品(エルメス、グッチ等)を購入し、合計約一三七七万円を支払い、〈2〉ピサから合計約四七六万円の物品を購入し、合計約五四八万円を支払い、〈3〉岩谷家の家族七名が、八月、前記万平ホテルに宿泊(九泊)した代金約三五三万円を支払い、合計で約二二七八万円を支出している。

以上をまとめると、〈1〉岩谷家の家族が、玉川高島屋から昭和六二年四月から平成七年三月までの間に、合計約二億六〇一四万円の物品を購入し、被告人において、合計約二億五五八八万円を支払い、〈2〉岩谷家の家族が、日本橋三越から、平成元年から平成五年までの間に、合計約三一〇三万円の物品を購入し、被告人において、合計約三二七四万円を支払い、〈3〉岩谷家の家族が、ピサから、平成三年一月から平成六年までの間に、合計約二四七七万円の物品を購入し、被告人において、合計約二四六六万円を支払い、〈4〉被告人において、平成元年から平成三年までの間に、カーレース出走費用として合計約一九二七万円を支出し、〈5〉被告人において、平成三年から平成六年までの間に、岩谷家の家族のホテル宿泊代金として合計約一〇七一万円を支出しており、〈1〉ないし〈5〉の支出額の合計は、約三億四三二六万円となる。

そして、右二の1ないし3によれば、被告人は、昭和五七年から平成八年までの間にした不動産購入、高級外車の購入、デパート等での買物等の支払のために、総額一〇億三五二六万円を支出していることになる。

第五  被告人が西明寺所有土地を売却するに至った経緯及び売却状況等

一 三幸商事、西明寺、被告人及び照純名義の借入金は、平成元年ころには、五〇億円を超え、金利だけでも毎月二〇〇〇万円ないし三〇〇〇万円を支払わなければならない状況になり、被告人は、その支払に窮する状況に陥った。

そこで、被告人は、日住金等金融機関に対して、西明寺の所有土地を売却して返済を行うので返済を猶予して欲しい旨申し入れ、元金と利息を少しずつ返済していくことの了承を得た。ところが、平成二年ころから、いわゆる不動産バブル景気が崩壊し、金融機関において融資の規制が行われるようになったため、被告人は、平成三年以降になると、新たな融資を受けることが著しく困難な状態に陥った。

二 被告人は、平成三年初めころ、借入金の総額が、約六〇億円にも達し、毎月の返済約定金額が、三幸商事名義のものだけでも、同年一月が約二八〇〇万円、同年二月が約九四〇〇万円、同年三月及び四月が三八〇〇万円、同年五月が約五四〇〇万円にも上り、一層窮したことから、この上は、西明寺所有土地を売却してその売却代金で右返済に充てるほかないと考えるに至り、同年(その月日の詳細を認定することはできない)、照純に対して、その旨を申し入れた。照純は、以前、隆眞から、三幸商事の借入金は、五億円位である旨聞いていたので、被告人から三幸商事の借入金が五〇億円位あると言われ、驚愕したが、三幸商事が借入金を返済できず、倒産するようになれば、担保に提供した西明寺所有土地が競売にかけられて土地を失うことになり、また、寺所有地を無断で担保提供したことが檀信徒に知られるなど大変な事態になるので、そのようなことを避けたいと考え、また、息子が困っているのを助けてやりたいとも思い「お前に任せるから、お前の裁量でやってみろ」「できるだけ損害を少なくするために、寺の土地を借りてその上に建物を建てて住んでいる借地人に売却するように」旨言って、西明寺所有土地を売却処分することに同意した。そして、被告人及び照純は、西明寺所有土地を売却するに当たって、西明寺規則が定める信徒総代に対する意見聴取・公告等の手続を履践すると、被告人が寺所有地を担保に金融機関からの借入れを重ねていたことが明らかになってしまうため、右手続を行わないことにした。

三 被告人は、平成三年秋ころ、三幸商事等事務所において、当時の池田及び宮崎ら従業員に対して、売却代金を金融機関からの借入金の弁済に充てるため、西明寺所有土地をその借地人に売却することとした旨を打ち明け、協力するよう指示した。池田及び宮崎らは、被告人の指示を受け入れ、宮崎の発案で、西明寺所有土地の賃借人に対して、貸借地売却の案内状を発送するなどし、当初は売却の話が進まなかったものの、平成四年四月ころから平成七年六月ころまでの間に、借地人等に対し、判示第一ないし第六の売却を含め、合計二三回にわたり、西明寺所有土地を代金合計約七億九一七〇万円で売却した。なお、被告人は、右売却の全てについて、前記の西明寺規則が定める手続を履践しなかった。

四 判示第一ないし第六の土地の売却の具体的状況は、以下のとおりである。

1 判示第一事実について

池田は、判示第一の土地の売却先を捜していたところ、三幸地所と業務提携していた日立造船不動産株式会社東京支店あざみ野店の宮地良次店長から、かねて京浜商事から依頼されて事務所兼倉庫の用地を捜していた不動産業者の沼田彰を紹介され、同人や京浜商事社員等を右土地に案内するなどして交渉を進め、同年三月ころ、右土地を同社に一億三二四万円で売却する旨の合意が成立した。そして、被告人は、同年四月三〇日、三幸商事等事務所において、京浜商事の相田満州雄専務取締役との間で、同社に判示第一の土地を前記代金で売却する旨の契約を締結し、その代金として、額面四三〇〇万円、三一二四万円、二四〇〇万円及び四〇〇万円の四通の小切手を受領した。右契約には、池田が同席し、被告人の指示で、契約書に西明寺の代表印を押捺するなどし、また、宮地、沼田及び平田茂司法書士が立ち会ったほか、富士銀行及び三和ビジネスクレジットの担当者も債権回収のために事務所に来ていた。そして、平田司法書士は、同日、京浜商事に対する右土地の所有権移転登記手続を行った。右売却代金の使途は、予め決まっており、被告人は、〈1〉同日、額面五〇〇万円の小切手を、三幸商事が富士銀行から、昭和五五年四月八日、右土地に根抵当権を設定して融資を受けていた債務の弁済に充てて、右根抵当権を抹消し、〈2〉売却同日、額面四三〇〇万円の小切手を、三幸商事が同年三月三一日に三和ビジネスクレジットから、右土地に抵当権を設定して融資を受けていた同金額の債務の弁済に充てて、右抵当権を抹消し、〈3〉売却同日、額面三一二四万円の小切手を、富士銀行武蔵小杉支店の西明寺名義の口座に入金した上で、二〇七三万三九八八円を、三幸商事の日住金に対する借入金の返済に、四四〇万六五五一円を、西明寺の日住金に対する借入金の返済に、三〇〇万円を、照純名義の日住金に対する借入金の返済にそれぞれ充て、〈4〉同日、額面二四〇〇万円の小切手を、三幸商事が冨樫幸子から西明寺所有土地の借地権を買い取った資金に充てた。

2 判示第二事実について

被告人及び宮崎の意を受けた三幸地所従業員の薮内隆之は、平成四年春ころから、判示第二の土地の賃借人の東横商事に右土地を売却すべく、同社代表取締役の小出茂と交渉を進め、その結果を被告人や宮崎に報告していたが、平成四年七月ころ、右土地を同社に一五〇〇万円で売却する旨の合意が成立した。そして、池田及び薮内は、同年九月二四日、三幸商事等事務所において、右小出茂との間で、右土地を、東横商事に前記代金で売却する旨の契約を締結し、同日、同人から手付金一五〇万円を受領し、次いで、同年一〇月六日、右事務所において、池田が小出から残代金として額面一三五〇万円の小切手(川崎農業協同組合振出)を受領した。右の席には、宮崎及び真島司法書士が立ち会い、三和ビジネスクレジットの担当者も債権回収のために右事務所に来ていた。真島司法書士は、同日、束横商事に対する右土地の所有権移転登記手続を行った。被告人の意を受けた池田は、同日、右小切手と現金一五〇万円を三幸商事の三和ビジネスクレジットに対する借入金(元本九億円)の利息等の支払に充てた。

3 判示第三事実について

宮崎は、平成四年秋ころから、判示第三の土地の賃借人の山本浩司に対し、右土地の買取り方を申し入れ、同年一〇月には、早急に購入されたい旨の文書を郵送するなどし、山本が仲介を依頼した不動産業者「株式会社地建」の従業員加藤満と交渉を進め、同年一一月ころ、右土地を山本に四一七六万円で売却する旨の合意が成立した。そして、宮崎は、平成五年二月八日、川崎信用金庫武蔵小杉支店において、山本との間で、右土地を同人に四一三〇万円で売却(宮崎は、被告人の了解を得て、四六万円を値引きした。)する契約を締結し、売却代金を川崎信用金庫武蔵小杉支店振出の小切手で受領し、その旨を被告人に報告した。右の契約の席には加藤満及び平田徳夫司法書士らが立ち会い、同司法書士は、同日、山本浩司に対する同土地の所有権移転登記手続を行った。

4 判示第四事実について

宮崎は、平成四年、判示第四の土地の賃借人村田保子に対して、案内状を郵送したり、直接訪問するなどして、右土地を購入してほしい旨申し入れ、その結果を被告人に報告し、被告人は右土地の売却代金を一坪当たり八〇万円と定めた。そして、宮崎は、平成五年二月初めころ、村田保子との間で、右土地を、同人の息子の村田大作に一六〇〇万円で売却する旨の合意をし、同月二一日、三幸商事等事務所において、村田保子との間で、右土地を村田大作に前記代金で売却する旨の契約を締結し、村田保子から、同日、手付金として四〇万円を受領し、同年三月三一日、第一勧業銀行武蔵小杉支店において、残代金一五六〇万円をそれぞれ受領した。残代金授受の席には、真島司法書士が立ち会い、同司法書士は、同日、村田大作に対する右土地の所有権移転登記手続を行った。右売却代金のうち、九〇〇万円が三幸商事名義の口座に、二五〇万円が照純名義の口座に移された上、いずれも、日住金に対する金利の支払に充てられた。

5 判示第五事実について

宮崎は、平成四年、判示第五の土地の賃借人齋藤菊男に対して、右土地の購入を勧める案内状を郵送したり、同人や同人の親族の大塚誠一・高田眞一らとの間で交渉を進め、平成五年ころ、交渉窓口となっていた大塚との間で、右土地を親族の齋藤眞砂次及び高田に対して代金四八〇〇万円で売却する旨の合意が成立した(なお、宮崎は、右交渉の過程で、買い主側に、融資をする金融機関として三菱銀行を紹介したり、購入資金不足を言う大塚や買主らに対し、被告人の同意を得て、三幸商事名義で一八〇〇万円を融資することを約束している。)。そして、宮崎は、平成六年二月二三日、被告人の了解を得て、買い主側が用意できなかった購入代金の不足分や諸経費等に充てるための金員として六〇〇万円を三幸商事名義で一時的に貸し付けた上で、三菱銀行武蔵小杉支店において、大塚との間で、右土地を齋藤眞砂次及び高田眞一に対し、前記代金で売却する契約を締結し、大塚から売却代金四八〇〇万円を受領した。その席には、仙洞田英子司法書士が立ち会い、同司法書士は、同日、齋藤眞砂次及び高田眞一に対する右土地の所有権移転登記手続を行った。宮崎は、同日、三菱銀行武蔵小杉支店の西明寺名義の口座に入金された四八〇〇万円のうち、一八〇〇万円を引き出し、同支店の三幸商事名義の口座に入金の上、これを前記約束に従って大塚名義の口座に入金し、大塚は、一時的に借りていた前記六〇〇万円を西明寺名義の郵便貯金口座に入金して返済した。また、前記四八〇〇万円のうちの一〇〇〇万円は、三幸地所の宅建業務に関して必要な供託金に充てられた。

6 判示第六事実について

宮崎は、平成六年四月ころ、判示第六の土地の賃借人知工知一の妻悦子と息子研太が、右土地の購入を希望して三幸地所に来たことから、同人らと交渉を進め、同月二八日ころ、右土地を知工夫婦と息子研太に四八八五万円六〇〇〇円で売却する旨の合意をし、同年五月一九日、三幸商事等事務所において、知工悦子及び知工研太との間で、右土地を知工知一ら三名に前記代金で売却する旨の契約を締結し、同年六月一〇日、三菱銀行武蔵小杉支店において、知工悦子及び知工研太から、右売却代金として額面合計ニ八八五万六〇〇〇円の小切手及び現金二〇〇〇万円を受領した。右代金授受の席には、真島司法書士らが立ち会い、同司法書士は、同日、知工知一ら三名に対する右土地の所有権移転登記手続を行った。被告人は、右売却代金のうち、四〇〇〇万円を三幸商事の債権者である石井工務店に対する支払に充てた。

〔本件各犯行の成立〕

第六 以上の認定事実、すなわち、被告人は、三幸商事及び三幸地方の代表取締役として、右両会社を自分の個人会社のようにして事業を行う傍ら、西明寺の代表役員照純(実父)が高齢で、同人から、同寺所有土地等の資産の管理を任され、同寺の責任役員として寺の経理(財務)の実権を握るようになるや、右両会社に西明寺を合わせた三者を自分の意のままに経営し、さらに、岩谷家個人の経理をも管理していたこと(前記第一の一ないし四の事実)、被告人は、西明寺、三幸商事等及び岩谷家個人の収支を区別することなく、これらを渾然一体のものとして処理し、主として西明寺及び三幸商事の収入で西明寺、三幸商事等及び岩谷家個人の支出を賄うとの考えの下に、資金に余裕のあるところから、支払を必要としている西明寺、三幸商事等及び岩谷家個人へ貸付金の名目で資金を互いに流用し、これを支払に充てていたこと(前記第一の五の事実)、被告人は、昭和五三年ころから、西明寺所有の土地上に、三幸商事名義で、マンション等を建築し、これを賃貸して収益を得る事業を展関するようになったこと(前記第二の一の事実)、しかしながら、被告人は、もともと資金がなかったため、右事業資金は、西明寺所有土地を担保に入れ、同寺が連帯保証をして、金融機関から融資を受けることにより捻出するというものであったこと、加えて、右事業は、融資を受けてから建物を完成させて家賃収入を得ることができるまでの間、金利を支払わなければならないという負担を伴うものであったこと(前記第二の一の事実)、そして、被告人は、右事業資金を得るため、西明寺所有土地を担保に入れ(その際、西明寺規則が定める手続は一切履践せずに)、同寺の連帯保証のもとに、三幸商事、西明寺、照純、自分等の名義で銀行等の金融機関から多数回にわたって融資を受け、平成元年ころには、借入金が総額五〇億円を超えるに至ったが、一方で、三幸商事及び西明寺の経営は、赤字が恒常的に続いていたこと(前記第二の二及び三、第三の一及び二並びに第五の一の事実)、そこで、被告人は、金融機関に対する支払金利等を捻出するため、金融機関から、使途目的を土地建物購入資金等事業資金であるとして融資を受け、これを使途目的以外の、滞納金利の支払に充てたり、さらには、融資金の一部を、投資目的とみられるリゾートマンション等の購入資金、自分の嗜好を満たすための多数の高級外車の購入代金、被告人を含む岩谷家の家族が行った贅沢品の買物代金等にも支出するようになった(個人的費消の総額は、総額一〇億円を超えている。)こと、そして、被告人は、金利の支払のほか、右のような放漫な支出を重ねたため、平成元年ないし二年ころから、借入金の金利の支払に一層窮するようになり、平成元年ころ以降は、金融機関から融資を受けた金員の殆どを、金利の支払に充てて凌ぐようになっていたこと(前記第四の一及び二の事実)、しかるに、被告人は、右のような窮状に陥ったにもかかわらず、不動産の購入(とりわけ前記第四の二1(一一)の昭和六三年一一月八日に契約し、平成元年三月二〇日に代金を完済した価額一億九三〇〇万円のヒューマンズ・ウエル京都一〇七号室の購入は、その顕著なケースである。)や高級外車の購入(前記第四の二2のとおり、平成元年三月以降被告人が西明寺所有土地の無断売却を止めた平成七年六月までの間に、ベンツ一一台、フォルクスワーゲンゴルフ三台、オペル二台を購入)を続け、平成元年から平成三年までの間にカーレース資金として、約一九二七万円を支出し、家族の贅沢品の購入・旅行等も規制することなく、その代金の支払を続けていたこと(前記第四の二3の事実)、そして、平成二年に至っていわゆる不動産バブル景気の崩壊が始まり、以後、金融機関は、融資の規制を行うようになったため、被告人は、平成三年以降は、新たな融資を受けることが著しく困難になり、平成三年初めころには、借入残高が六〇億円位にも達し、さらに窮迫の度を強めたこと、そこで、被告人は、金利等を支払うためには、西明寺所有土地を売却して金員を得るしかないと考えるに至り、照純の同意を得た上、同人の意見で、西明寺所有土地の借地人にその借地を売却する方針を立て、池田ないし宮崎に命じて、平成四年四月ころから平成七年六月ころまでの間に、西明寺規則が定める手続を履践することなく、寺所有土地を、借地人等に対し、判示第一ないし第六の売却を含め、合計二三回にわたり、代金合計約七億六六〇三万円で売却し、得た金員を金融機関に対する支払や不動産・車両、買物購入資金等に充てて費消したこと(前記第五の一ないし三の事実)、判示第一ないし第六の売却における被告人や池田・宮崎ら関係者らの言動(前記第五の四の事実)、などの各事実を総合すれば、被告人が、照純(判示全事実)、宮崎(判示第一及び第二事実)並びに池田(判示第二ないし第六事実)らと共謀の上、本件各犯行に及んだことは明白であるといわなければならない。

〔弁護人の主張に対する判断〕

一  西明寺と三幸商事との間の包括的金銭消費貸借契約の存否について

弁護人は「西明寺所有の判示第一ないし第六の土地の売却代金の一部が、三幸商事の金融機関に対する元利金の支払等三幸商事のために費消されているけれども、西明寺と三幸商事との間には、かねてから、同寺が三幸商事から継続的に金員を借り受ける旨を内容とする「包括的金銭消費貸借契約」が存在しており、西明寺は、右基本契約に基づいて、三幸商事から継続的に金員を借り受けていたものであるところ、本件において、西明寺は、本件各土地の売却代金の一部を、寺の三幸商事に対する右借入金の弁済として支払い、三幸商事は、右金員の一部を金融機関に対する利息金等の支払に充てており、したがって、西明寺は、自己のために右金員を費消したというべきであるから、被告人に横領行為は存在しない」旨主張する。

そこで、弁護人が主張する「包括的金銭消費貸借契約」の存否について検討するに、〈1〉被告人は、三幸商事等及び西明寺を自分の意のままに経営し、三幸商事等、西明寺及び岩谷家個人の収支関係等を渾然一体のものとして処理していたものであること、〈2〉三幸商事と西明寺間に、弁護人が主張するような包括的金銭消費貸借契約(弁済期、金利及び担保の約定等)の存在を窺わせる証拠は、被告人の公判供述以外に一切なく、被告人自身も、捜査段階において、右契約の存在につき、全く言及していないこと、加えて、弁護人がその存在を主張する個々の金銭消費貸借に関しても契約書等が一切作成されていないこと、〈3〉弁護人がその存在を主張する三幸商事から西明寺に対する貸付金が西明寺の資産として残存している形跡がないこと、〈4〉西明寺から三幸商事に対して利息が支払われていないこと(なお、三幸商事から西明寺への資金の移動については、帳簿上、貸付金として処理され、また、受取利息も計上されているけれども、これは、関谷税理士らが、税務対策上、とった措置であり、右帳簿上の処理は実体と乖離したものであること)、〈5〉三幸商事の西明寺に対する貸付金として会計処理されている金額は、莫大である(ちなみに、帳簿上、昭和六三年七月末で約五億二一四一万円、平成元年七月末で約六億七二六四万円、平成二年七月末で約九億二七〇八万円、平成三年七月末で六億九〇一四万円とされている)ところ、これに対して、西明寺の財務は、昭和六三年度から赤字に転落し、平成三年度には約三億六一七八万円もの赤字を計上しており、このような西明寺の経営状況からみても、同寺が、右のような莫大な金員を三幸商事から借り入れることは考えがたいこと、などに徴すると、弁護人が主張する「包括的金銭消費貸借契約」は存在しなかったと認めるのが相当であり、したがって、右契約の存在を前提とする弁護人の主張は、その前提を欠き、その余の点について検討するまでもなく採用することができない。

二  不法領得の意思の存否について

弁護人は「西明寺は、三幸商事の金融機関からの借入金の支払について連帯保証し、その所有土地を担保提供していたものであるところ、被告人がした本件各土地の売却は、主債務者である三幸商事が返済不可能となったため、西明寺が連帯保証債務を弁済することを目的として、すなわち寺自身の債務を弁済することを目的としてなされたものであって、被告人は、西明寺の利益(寺の債務を消滅させる)のために本件各土地を売却したものであるから、被告人には、不法領得の意思がなかった」旨主張する。

しかしながら、被告人は、前記のとおり、三幸商事が金融機関から融資を受けるに際し(別紙一覧表参照)、西明寺がその所有土地を担保提供し、連帯保証をするに当たって、その全ての事例について交渉を担当しているところ、その際、西明寺規則が定める手続(仮代表役員や仮責任役員の選定、信徒総代の意見の聴取、責任役員の同意、公告等)を一切履践していないことに加えて、自ら西明寺の代表印を無断で使用したり、池田に照純の署名をさせるなどして「三幸商事が右融資を受けるにあたり、西明寺所有土地を担保として提供することに異議がない」旨の西明寺責任役員議事録を作成するなどし、さらに、被告人は、本件において、西明寺の責任役員として、代表役員である照純の了解・同意を得た上で、西明寺代表役員名義で、判示第一ないし第六の売買契約を締結しているところ、右売買契約を締結するにあたっても、西明寺規則が定める前記手続を一切履践していないこと、したがって、前記西明寺がした担保提供及び連帯保証契約並びに判示第一ないし第六の売買契約(売却処分行為)には、いずれも重大な瑕疵があり、その有効性に疑念が残るのであって、これらが適法かつ有効であり、西明寺に金融機関に対する連帯保証債務が存在することを前提とする弁護人の主張は、その前提を欠き失当というほかない。

三  権限の逸脱(利益相反の存否)について

弁護人は「本件は、西明寺が、本件不動産を三幸商事に売却するものではなく、第三者に売却する事例であるから、西明寺と三幸商事との間に利益相反の可能性は存在しないから、本件各売却に当たっては、西明寺規則が定める仮代表役員、仮責任役員の選任は必要がない」などと主張するけれども、利益相反行為に該当するかどうかは、西明寺とその代表役員もしくは責任役員との間の問題としてとらえるべきところ、本件においては、寺の責任役員である被告人が代表取締役をしている三幸商事の債務を支払うために、西明寺が、その所有土地を売却するという事案である(かつ、西明寺の代表役員である照純もそのことを了解した上で、被告人が土地を売却することに同意している)から、本件において、西明寺と被告人及び照純との間に利益相反関係が存することが明白であるから、この点に関する弁護人の主張は採用することができない。

また、弁護人は、彼に仮代表役員の選任が必要であったとしても、その要否の判断については、法律的素養が要求されるところ、被告人は、これを欠いているから、その必要性を認識することは不可能であり、また、本件各土地の売却に際して公告手続を履践していないのも、被告人の法の不知によるものである旨主張するが、右主張は、いずれも法律の錯誤に過ぎず、故意の阻却は認められない上、被告人は、西明寺所有土地を担保に入れて融資を受ける際、公告の看板を掲げて写真撮影をした上、これをすぐに除去して、公告を行った旨仮装していることに徴しても弁護人の右主張は採用することができない。

四  不可罰的事後行為について

弁護人は「判示第一及び第二の土地については、それより前の段階で被告人が右土地を金融機関に対して担保に提供した(先行行為)時点で、既に横領罪が成立しているから、その後に行われた被告人の本件売却行為(後行行為)は、いわゆる不可罰的事後行為に該当し、被告人に横領罪は成立しない」旨主張するけれども、不可罰的事後行為とは、窃盗の犯人が盗品を損壊する行為のように、それだけを切り離せば、別の犯罪「(器物損壊罪)が成立するように見えるが、右損壊行為が元の犯罪行為(窃盗)に対する違法評価に包含し尽くされているため、別の犯罪(器物損壊罪)として成立しないとするものであるところ、弁護人がいう先行行為は、土地を担保に入れる(抵当権を設定する)行為であって、この場合には、土地が有する経済的価値のみを侵害する犯罪が成立するに止まるのものであるのに対して、後行行為(判示第一及び第二の所為)は、土地所有権(経済的価値を含め、土地が有する価値の全て)を第三者に譲渡する行為であって、右両者を比較すると、他人の土地を第三者に譲渡する後行行為が、他人の土地を担保に入れる先行行為に対する違法評価に包含し尽くされているといえないことが明らかであるから、被告人の判示第一及び第二の所為が、不可罰的事後行為であるとする弁護人の主張は採用することができない。

五  被告人の供述調書の任意性及び信用性(乙一ないし二五の証拠排除の申立てを含む。)について

弁護人は「被告人は、平成九年六月二六日逮捕されたが、その当日、被告人を取り調べた警察官らから『白状すれば父親はすぐ出してやる。白状しなければいつまでも外に出られない』旨言われるなどして自白を強要され、また、同年七月下旬から八月上旬にかけて殆ど連日、しかも終日にわたって取調べを受け、特に七月二七日には、赤羽警部から、お前が認めなければ奥さんを逮捕して白状させてやる、娘も呼んでやる、などと怒鳴りつけられるなどして自白を強要され、検察官からは、威嚇的な取調べはなかったものの、理詰めで検察官の認識を押しつけられるなどして供述調書が作成されているから、捜査段階において作成された被告人の各供述調書はいずれも任意性も信用性もない」旨主張し、被告人の各供述調書(乙―ないし二五)の証拠排除を求め、被告人も公判廷において、弁護人の主張に副った供述をするので検討する。

関係各証拠によれば、〈1〉被告人は、平成九年六月二六日、判示第二の土地にかかる業務上横領の嫌疑により逮捕されたが、逮捕前(前年九月ころ)から西明寺や三幸商事の借入金の処理のことなどについて相談していた近藤節男弁護士らを、逮捕された二日後(平成九年六月二八日)に弁護人として選任し、以後、本件四人の弁護人らは、連日のように(一日に二回のこともあった。)被告人との接見を行い、被告人に「どういうことを聞かれたか。供述調書を作成したか。」などと確認したり、「やっていないことは、やっていないと言えばいい。気に入らない書類(供述調書)には、訂正の申し入れをすることができるし、署名する必要がない。」などと指導し、同年七月二八日には、神奈川県警察本部に、警察官の取調方法を抗議する「警告書」を内容証明郵便で送付していること、また、被告人は、接見に来た弁護人に対して「(取調べでは)何も嘘をついてないし、事実を述べればいいのだから、何も辛いことはない(同年七月一九日)」「横領だと言われているが、そうではないと頑張っている(同月三一日)」などと告げていること、〈2〉被告人は、供述調書作成の際、供述調書の読み聞けを受けたり、自ら閲読をするなどしており、供述調書の訂正を申し立てて、訂正をしてもらったり、供述調書の作成に応じないこともあったこと、〈3〉被告人については、同年八月五日及び九月五日の二度にわたり、勾留理由開示が行われているところ、被告人は、その際「自分は警察官の取調べに屈することはなかった」「私は、やっていないことは、やっていないと言っています」旨供述していること、〈4〉被告人の供述調書の内容が「被告人が、西明寺、三幸商事等及び岩谷家個人の資産の管理・経理等を何ら区別することなく渾然一体として処理していたこと」「岩谷家個人が行うべき支払を、三幸商事及び西明寺名義の資金で支払った場合には、支払に充てたと同額の金員を、三幸商事ないし西明寺が、岩谷家個人に対して貸し付けたことにして会計処理していたこと」「被告人は、西明寺の権利証、預貯金通帳等を、三幸商事等の事務所で保管していたこと」「被告人が、平成三年ころ、照純に対して、三幸商事等が金融機関からの借金の返済に窮しており、西明寺所有土地を売却して、その代金を返済に充てたい旨の申入れを行い、その承諾を受けたこと」「被告人は、照純から右承諾を得た際、同人から、西明寺の被る損害をできるだけ小さくするため、西明寺所有土地の借地人にその底地を売却するよう指導されたこと」「被告人は、同年秋ころ、池田ら三幸商事及び三幸地所従業員に対して、西明寺所有土地を借地人に売却するよう指示したこと」等の点において証人宮崎、同池田、同関谷、同金森らの各公判供述、照純の検察官に対する各供述調書(以下「検面調書」という。)等関係各証拠と符合すること、などに徴すると、被告人の各供述調書の任意性及び信用性に疑点はなく、弁護人の証拠排除の申立ても理由がない。

弁護人は、とりわけ、被告人が七月下旬から八月上旬にかけて、連日、終日にわたる取調べを受けている(七月二九日は一一時から一八時三〇分まで検察官の取調べ、同月三〇日は九時三五分から一八時四〇分まで検察官の取調べ、同月三一日は一〇時四〇分から一六時三〇分まで刑事の取調べ、八月一日は一〇時から一一時まで刑事の取調べ、同日一六時から二一時一五分まで検察官の取調べ、同月二日は一〇時から一一時まで刑事の取調べ、同日一三時から二〇時まで検察官の取調べ)ことを理由として、その間に作成された被告人の検面調書には任意性がない旨主張するが、前記説示したところに加え、本件事案は、複雑多岐にわたるものであって、被告人を連日取り調べるのはやむを得ないというべきであり、また、弁護人の主張する取調時間も深夜に及んでいないなど、過酷なものとはいえないから、弁護人の右主張は採用することができない。

六  照純の検面調書の信用性について

弁護人は「照純の各検面調書(二〇〇ないし二〇六)は、同人が高齢のため若干老人ぼけの傾向があった上、逮捕・勾留されたショックで記憶力・思考力が極端に低下した状況下で、検察官が理詰めで強要して作成された蓋然性が大きいから、その内容は信用できない」旨主張するけれども、右各検面調書は、弁護人が、第五回公判において証拠とすることに不同意意見を述べたものの、第一一回公判において不同意を撤回して、証拠とすることに同意した結果、いわゆる同意証拠として取り調べられたものであるところ、弁護人は、右各供述調書について、信用性を弾劾する立証を何らしていないこと、照純は、大正元年一〇月生まれの高齢者ではあるものの、右各供述調書における供述調書内容は「被告人は、西明寺の権利証、預貯金通帳等を自分で保管し、自分に相談することなく、西明寺の所有地を担保に入れて西明寺や三幸商事名義で莫大な融資を受けるなどしていた」「自分は、関谷税理士らから、被告人に西明寺の財産管理を任せていることについて注意を受けた」「西明寺所有土地を担保提供する際に作成された西明寺責任役員議事録及び西明寺所有土地の売買契約書の代表役員欄の署名・押印は、自分が行ったものでないこと」「平成三年ころ、被告人から、三幸商事等の名義で莫大な借入金をしていることを打ち明けられ、その返済のために、寺所有地を売却したい旨懇願され、これを承諾した」などというものであって、内容は具体的で、一貫性があり、証人宮崎、同関谷、同金森、同池田の各供述や被告人の各供述調書等関係各証拠と大筋において符合しており、信用性に疑念を差し挟む余地はない。

七  証人宮崎の公判供述の信用性

弁護人は「証人宮崎は、捜査段階において、検察官から説得され、押しつけられて、本件共犯者としての自分の刑事責任を認めているところ、これを前提として公判供述に及んでいるに過ぎないから、同証人の公判供述は信用することができない」旨主張するもののようであるが、同証人の供述内容が、他の関係者の公判供述や捜査段階における供述等と概ね符合していて矛盾するところがなく、弁護人からの詳細な反対尋問に対しても重要な部分について動揺がないこと、などに徴すると、信用性を争う弁護人の主張は、採用することができない。

その他、弁護人が縷々主張するところは、前記認定と対比して、いずれも採用することができず、前記認定に反する被告人の公判供述は信用することができない。

(法令の適用)

被告人の判示第一ないし第六の所為は、いずれも平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、二五三条に該当するが、以上は、同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役四年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中四〇〇日を右刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法―八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の事由)

被告人は、西明寺の代表役員をしていた老齢の父照純から、寺所有地等資産の管理等(財務)を任されていた立場を利用し、西明寺規則が定める手続を無視して、寺の所有地を担保に入れ、寺を連帯保証人とする旨の契約を無断で締結するなどして金融機関から融資を受けた金員を事業資金として、寺の所有地上に賃貸用マンション等を建築し、これを自らワンマン会社として経営していた三幸商事の所有名義とし、他に賃貸して利益を得ようと考え、金融機関が、折からのいわゆる不動産バブル景気で、土地を担保に提供しさえすれば、容易に融資を行うとの方針であったこともあって、多数回にわたって、莫大な融資を受け、右事業を展開したものであるが、事業を始めるにあたって、寺の規則や檀信徒の意向を無視した被告人の強引な手法が本件各犯行の遠因となっていることを否定できないこと、被告人は、もともと資金がなく、金融機関からの融資金で事業の全てを賄っていたため、建物建築費用等本来の支出のほかに、融資を受けてから建物を完成させ、これを賃貸して収入を得るまでの間の金利(概ね年利八パーセント以上)をも負担しなければならなかったことに加え、三幸商事・三幸地所や西明寺を維持するための経費も捻出しなければならなかったのに、平成元年ころまでの間に、融資を受けた金員の一部を、投資目的ともみられるリゾートマンション(九戸)等不動産の購入資金(平成元年三月までに約四億五〇〇〇万円)、被告人の嗜好を満足させるためのベンツ等高級外車の購入資金(平成元年までに一〇台で約七九七九万円)、被告人の趣味で、三幸商事名義で出走していたカーレースへの支出(平成元年に約五四一万円)、被告人の家族のデパート等における贅沢品の購入資金(平成元年度だけでも年間約六六六一万円)に充てるなど放漫な支出を重ねたためもあって、借入金が膨れ上がり、平成元年ころには、借入金の元利金残高が五〇億円を超え、毎月の支払金利だけでも二〇〇〇万円ないし三〇〇〇万円にも達するようになり、西明寺や三幸商事は経済的に破綻を免れない状況に陥ったものであって、被告人は、自ら経済的破綻を招いたものであること、そして、平成二年ころから、いわゆるバブルの崩壊現象が始まり、金融機関からの新たな借入れが困難な状況になったのに、被告人の高級外車の購入、カーレースへの支出、家族の贅沢品の購入等は、それまでと変わらず続けられ(却って、平成三年からは、費用が一度に三〇〇万円もかかる家族旅行も始まっている。)、平成三年初めころには、借入金の元利金残高が六〇億円を超えるに至ったこと、本件は、右のような経緯で経済的に追い込まれた被告人が、金融機関に対する返済資金を捻出するとともに、前記のような個人的支出の資金をも確保することを目的として約二年間もの長期間にわたって繰り返した犯行であって、このような犯行に至る経緯・動機は、この種の犯行の中でも類を見ないほど悪質なものであって、斟酌の余地が全くないこと、被告人の本件各犯行により西明寺が失った土地は約八六九平方メートルにも及び、被告人は本件各犯行により約二億七二三九万円を得ており、本件各犯行が西明寺に与えた財産的損害はもとより、社会的信用の毀損にも大きなものがあること、本件が、僧侶による犯罪として、広く報道されたことにより、社会に与えた影響も無視することができないこと、被告人は、現段階に至るまで、被害弁償を行おうとせず、その意思も表明しておらず、同寺の檀信徒らの被害感情には厳しいものがあること、被告人は、公判廷において「西明寺は三幸商事に対して多額の借入金があり、これの返済のために本件各土地を売却した」「西明寺の僧侶・役員の報酬が支給されていなかったから、右報酬額分につき、被告人ら個人のための買物代金等を西明寺から支出したものであって、非難されるいわれはない」「自分としては贅沢をしたつもりはない」などと不合理で身勝手な弁解や供述を繰り返しており、現時点においても反省の情が全く窺われないこと、などに徴すると、被告人の刑事責任は重いというほかなく、被告人に、業務上過失傷害罪による罰金前科一犯があるほかには前科がないことなど、被告人のために斟酌すべき事情を考慮しても、被告人に対しては、主文掲記の実刑を科するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

別紙

西明寺・三幸商事等借入及び融資残高一覧表

〈省略〉

別紙

〈省略〉

別紙

借入人別総合計

〈省略〉

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